日々の生活のなかで他人に腹が立ったり、
自分を責めすぎてしまったりすること、ありませんか。
そんなとき、仏教の伝統的な瞑想である
「慈悲の瞑想(メッタ・バーヴァナー)」が、心をやわらげてくれます。
慈悲の瞑想は
「わたしも他人も幸せでありますように」と願う実践です。
怒りや嫉妬といった苦しい感情に押し流されそうなとき、
内側からやさしさを呼び起こすための方法といえるでしょう。
きょうは慈悲の瞑想の効果とやり方から、
日常に取り入れるヒントまで、詳しくご紹介しますね。
慈悲の瞑想とは?
慈悲とは「すべての存在が幸せであってほしい」と願う心です。
仏教では、これを”四無量心(しむりょうしん)”のひとつとして説きます。
四無量心とは、
仏教において他者に向けられる無制限の思いやりを示す
慈(じ)、悲(ひ)、喜(き)、捨(しゃ)の四つの心の状態を指します。
慈(いつくしみ):幸せを願う心
悲(あわれみ):苦しみがなくなることを願う心
喜(よろこび):他者の幸せを共に喜ぶ心
捨(おだやかさ):偏りのない平等な心
慈悲の瞑想は、
このうち”慈無量心”と”悲無量心”を中心に育てる実践です。
慈悲の瞑想がもたらす変化
慈悲の瞑想が持つ効果として、以下の三つがあります。
- 怒りがおだやかになる
- 自己否定がやわらぐ
- 人との距離感がやさしくなる
瞑想を実践すると、
怒りの感情がゼロになるわけではありません。
ですが慈悲の瞑想を続けていくと、
たとえ腹が立つことがあったときに「相手も苦しんでいるのかもしれない」
と想像できる余裕が生まれます。
またあなたがあなた自身に、「幸せでありますように」と語りかけることで、
あなたがあなた自身を責めすぎない心が育っていきますよ。
さらに他人を”敵”とみなすことが減り、
関係が少しずつ和らいでいきます。
つまり瞑想を続けることで、
他人と心地よい距離感を保つことができるようになるんです。
では次の章から
実際に慈悲の瞑想のやり方をご紹介しますね。
慈悲の瞑想のやり方
慈悲の瞑想は、次の7ステップで実践していきます。
- 落ち着いた場所で座る
- 呼吸に意識を向ける
- あなた自身に言葉を送る
- 身近な人にその言葉を向けてみる
- あなたにとって中立的な人にその言葉を向けてみる
- あなたが苦手と思っている人にもその言葉を向けてみる
- 最後に、すべての生き物にその言葉を向ける
もう少し詳しく解説します。
〈①落ち着いた場所で座る〉
背筋を伸ばし、軽く目を閉じます(半分開けていてもOK)。
〈②呼吸に意識を向ける〉
数回ゆっくり呼吸して、心を整えます。
〈③自分に言葉を送る〉
心の中で、次のように唱えます。
”わたしが”しあわせでありますように
”わたしが”安全でありますように
”わたしの心が”安らかでありますように
まずは主語を「わたし」にしてみましょう。
軸を”自分”にすることで、心が少しずつ整ってきます。
〈④身近な人にその言葉を向けてみる〉
次に、家族や友人など、
あなたの大切な人を思い浮かべて、同じ言葉を送ります。
〈⑤あなたにとって中立的な人にその言葉を向けてみる〉
次は特別に好きでも嫌いでもない人を思い浮かべ、やさしい願いを送ります。
〈⑥あなたが苦手と思っている人にもその言葉を向けてみる〉
嫌いな人や苦手な人、あなたを傷つけた人にも、少しずつ願いを向けていきます。
〈⑦すべての生き物にその言葉を向ける〉
最後に、「すべての生きとし生けるものが、幸せでありますように」と広げていきます。
実践で気をつけること
ここまで慈悲の瞑想のやり方を解説しましたが、
実践するときに気をつけてほしいことがあります。
まず、最初から”嫌いな人”に慈悲の心を向けようとするのはおすすめしません。
むしろ逆効果になりやすいので、
まずは”あなた自身”や”大切な人”から始めましょう。
そして、慈悲の感情が湧かなくても問題ありません。
言葉を唱えるだけで、少しずつ心にしみこんでいくので安心してください。
続けることで、心の習慣が変わっていきます。
瞑想は”心の筋トレ”とも言われていますが、
通常の筋トレと同様、効果を実感するには継続する必要がありますよ。
日常に取り入れるヒント
- 寝る前の数分間、布団の中で唱える
- 通勤中の電車の中で、心の中でとなえる
- 誰かにイライラしたときに、深呼吸とともに唱える
このような小さな実践を積み重ねることで、
慈悲の心は生活の一部になりますよ。
最後に
慈悲の瞑想は、
怒りや不安を消し去る”魔法”ではありません。
でも続けることで少しずつ心をやわらげ、
やさしさを自分の中に育てていく道しるべです。
ブッダはこう語りました。
敵意は敵意によって鎮まることはない。友愛によってのみ鎮まる
(ダンマパダより)
怒りや苦しみが強い時代だからこそ、
慈悲の瞑想を日々に取り入れてみませんか。
その小さな実践が、
あなた自身と周りの人々の心を少しずつあたためていきますよ。


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